千心美生
21世紀は心の時代になると聞いた覚えがあります。確か20世紀に驚くほどの物の充実で生活は便利になったものの、至って心の分野が疎かになる可能性を危ぶんで、今後は心が大事な時代になると言われていたと思います。
現在、心が疎かになっているという感じは制度的にはありません。セクハラ、パワハラ、モラハラ、マタハラ、アカハラ、オワハラと人を傷つける言動を諌めるモラルで息苦しいほどです。
人には誰からも侵されるべきでない基本的人権があり、人種、信条、性別、社会的身分または門地により差別されないことは憲法で保障されている通りです。
しかしながら、あまりの自縄自縛によって、人間関係が平板で希薄になってしまっていないかを危惧しています。
相手を傷つけないようにしようとするあまり、相手の心に踏み込まない当たり障りのない会話に終始する。
不用意な発言を断罪するうちに誰もが失点主義に陥り、「おせっかい」も「余計なお世話」もない軽くて乾燥した人間関係では、かえって孤独を募らせることにならないかを心配しています。
生きるうえで自分ひとりの考えではどうにも行き詰まることはたくさんあります。先人の知恵や親身になってくれる人の助けなくては人生を切り拓くことはできません。その中には、デリカシーのない言葉には傷ついたけれども自分が目を背けていた現実に気付いたり、つい感情的になって人を傷つけた後悔の中で人間性が鍛錬されることもあるのではないでしょうか。
少し前にYouTubeでアメリカの母親が面白半分にデモに参加した息子を偶然に見つけて、タコ殴りしてデモ隊から離脱させた映像を観ました。子供に対する体罰は法律で禁止されており、逮捕されることもあるアメリカで、その母親の行為に対しては賛辞されていました。
暴力は決して許されるものではないとしても、そこにある必死の愛情を汲み取ることができるのです。
人は人と係わるなかでしか成長できません。
褒めて伸ばすことは大切なことですが、耳に心地よい言葉だけでは理不尽な運命に立ち向かっていけません。
ハラスメント防止という制度は本当の愛情とは何であるかを私たちに問いかけているのではないかと思うのです。
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長く厳しい戦乱の時代が終わり、平和な江戸時代が訪れると、宗教や権力の象徴として使われてきた美術に「楽しむ」という目的が生まれた。
そこで、庶民たちの間で愛されたのが、「かわいい」という概念を持った動物たちの美術である。円山応挙の子犬、歌川国芳の猫、伊藤若冲の象…。
かくして私たちがよく知る江戸時代は、動物たちの「かわいい美術」が花開く時代となった―。
現代人の私たちから見ても、心の底から「かわいい」と思える江戸時代の動物画を、あいうえお順で図鑑のように楽しく眺めることができる本書。ぜひこの機会に手にとって読んでもらいたい。
代表取締役 千堂 純子